現代の心の病気としてのうつは、非常に深刻な社会問題となっています。うつによって仕事を辞めなくてはいけなかったり、何年も家から出れなくなったり、最悪の場合には自殺に至ることもあります。このように、心の病気は身体の病気と同じように深刻なものですが、うつに対しての明確な治療法が確立されているわけではありません。また、うつの患者数は年々増加傾向にあって、その対策が切実に求められています。
本書では、東洋思想の一つであるヨガの思想をベースにしたヨーガ心理学の考え方をもとに、うつの改善や予防についてご紹介していきたいと思います。
ヨガは現代ではヨガはエクササイズとして広く認知されていますが、古いヨガの経典などでは哲学が重要視されており、そのヨガの哲学体系から現代の私たちの心理に応用したものがヨーガ心理学です。
ヨーガ心理学の特徴は、永続的な自己存在や輪廻を想定する点にあります。輪廻とはヨガのみならず仏教など東洋思想全般にある生死観ですが、人間の個人存在が死後も存続し、次の肉体へと生まれていくという考え方です。つまり、人間の個性や人格というのは、生まれた環境やこれまでの学習によって形成されるのではなく、すでに備わっているという見方をします。
うつについて考えるとき、この永続的な自己存在や輪廻の視点が非常に重要なのではないかということが本書の指摘の一つです。なぜなら、もしあなたの個性が、生まれたとき全くの白紙で、環境や学習によっていかようにも作り変えることができるなら、うつにはなりようがないからです。個性も自我もないのなら、学校で「あなた達には個性も自我もないので、社会で求められる通りに働き、自分の意見など持たずに、会社や国の指示に従って生きていれば良いのです」と教え込み、実際その通りの人間を育てることができるなら、うつはこの社会には存在しないでしょう。しかし、そうはならないので、人は悩み苦しみ、うつになると考えることができます。
このように、人間の自我の働きとその人の個性を中心的な主題とし、心の快不快、苦楽の相対的な面を加味してうつの原因をヨーガ心理学の観点から読み解いていくのが本書の目的です。
目次
はじめに
ヨーガ心理学とは何か
1章 うつと現代の心理療法
うつ病の診断
現代のうつ病に対するアプローチ
認知行動療法
その他の心理療法
入院する
2章 うつの分析
うつを分析する
うつの原因に対する二つの観点
うつの深刻さ
悩みの長期化
3章 うつとヨーガ心理学の取り組み
ヨーガ心理学のアプローチ
4章 心の相対性による苦しみ
潜在印象による苦しみ
心の相対性について考える
うつと心の相対性
物事を平等に見る
価値基準を手放し肯定的に状況を分析する
苦しみを受け入れる
双極性障害について
死と別れとの覚悟
5章 自己理解を深める
自我対象とは何か
自我対象の分布図
自我対象とうつ
自己理解のための三つの取り組み
自我対象の分散
自我の想い
直観や感動を大切にする
思考の使い方
鑑賞者の視点を持つ
純粋意識とは何か
人生を映画として楽しむ
6章 愛に根差して自分らしく生きる
自分探し
うつと自分らしさ
自分の生き方を他人に依存しない
人生の意味について考える
自分らしさとは何か
欲望としての自分らしさ
自我対象としての自分らしさ
愛や慈悲としての自分らしさ
うつを回避するための生き方
意志とエネルギー
人生は旅行
自主的な行動をする人はうつになりにくい
なぜ愛や慈悲が大切なのか
結果にこだわらず執着しない
人間だけがうつになる理由
愛と自我
コーザル体とは何か
7章 うつのカウンセリングのポイント
⑴心の苦楽の相対性
⑵自我対象の問題
⑶愛や慈悲に根ざした自分らしい生き方
カウンセリング1
苦楽の相対性
自我対象の問題
自我対象の分散
自分らしい生き方
思考を使う
カウンセリング2
輪廻の考え方
思い出を手放す
カウンセリング3
他人の価値観に依存しない
高級自我と低級自我
おわりに