働く人の、メンタルヘルスケアのための瞑想

ビジネス向けの瞑想を用いたストレスケアの本です。
考えすぎ、イライラがたまる、ネガティブ思考が手放せないなど、
仕事面でストレスを抱えている方はぜひお読みください。

働く人の心の健康のための瞑想法をご紹介します。
ストレスや怒りなど、現代では心の問題がよく話題になるようになりました。
このように、現代人の多くが心の問題で悩む原因の一つは思考の使い過ぎにあります。
心を休息させる方法として瞑想は有効であり、日常的な思考の量を減らすことでストレスを改善することができます。
一方で、思考が全く必要ないかと言えばそうではありません。
仕事をするときには思考を十分に使う必要があるからです。
したがって、大切なのは思考のオンとオフを適切に切り替えることで、これを本書では思考のマネジメントと呼び、その実践的な方法をご紹介していきます。
快適な日常生活を送るために瞑想を習得してみませんか。

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目次

はじめに
1章 瞑想の定義
思考の使い方を知る
2章 心について
心の性質
3章 思考の働き
思考の問題
他人と比較することによって起こる心の問題
原因を分析することによって起こる心の問題
4章 思考は私ではない
思考は自分では動かしていない
5章 私とは何か
意識のスクリーンと意識のチャンネル
6章 思考を止める
7章 瞑想の実習
瞑想の注意点
8章 瞑想のトレーニングで集中力を上げる
思考に対する集中
思考を使いこなす
9章 日常生活の中で瞑想する
考えすぎは疲労の原因
嫌な思考を別の思考に置き換えてみる
10章 思考が作り出す様々な問題と取り組み
他人と比べると幸福感は下がる
思考の精度は低い
思考の想像には臨場感がある
考えている間はリラックスできていない
11章 思考を減らす
思考が動きそうなものは遠ざける
思考の負担になりそうなことは避ける
同じことは何度も考えないようにする
他人の気持ちをあれこれ想像しない
思考の声は私の声ではない
自分軸を持つこと
12章 思考を使う
思考の大切さ
自分らしさと思考
愛と思考
低級思考と高級思考
思考の上手な使い方
困難な状況におちいったときほど思考の選択が大切
13章 心の問題に対処する
瞑想で自律神経を整える
あがり症の解消
怒りを手放す
過去の嫌な記憶やトラウマを手放す
自己肯定感について
14章 マインドフルネス瞑想との違い
「今ここ」とは何か
「今ここ」にいることの喜びと違和感
価値判断しないこと
15章 瞑想の目的
現代人の飢餓感
すでにあるものの幸福感
自分の内側にある至福感
おわりに

はじめに

近年、心の問題が特に注目を集めるようになってきました。現代の私たちの生活は物質的には豊かですが、その反面、心に問題を抱える人が増えているからです。ではなぜ、このようにたくさんの人が心の問題で苦しんでいるのでしょうか。その原因の一つは、思考の使い方にあると私は考えています。

思考とは、一般的に私たちが「考える」と表現している心の働きです。その動きをもう少し詳しく観察してみるなら、そこには何かを比較したり分析したりする心の動きがあることが分かります。例えば、「この道で行くより、こっちの道で行った方が近いな」とか、「昨日Aさんが怒っていたけど、それはどういう理由だったのだろう」というように、思考は日々様々な比較や分析を繰り返しています。

また、過去を思い出して問題に対処したり、未来を予測しながら危険に備えたりすることも思考の働きの特徴です。「今月はお金を使い過ぎたから給料日まで節約しなきゃ」とか、「来週仕事でプレゼンがあるから今週中には準備しておこう」というように、過去や未来を思い浮かべながら、生活に支障が出ないように配慮しています。

こういった思考の働きは、現代の私たちの生活には欠かせないものです。電車に乗ったり、人と会話をしたり、スマホを使うのにも思考を使います。また、思考には大変クリエイティブな面もあります。巨大な建物、空を飛ぶ飛行機、ロケットに乗って宇宙にまで行くことができるようになったのも、まさにこの思考の力です。地球上で人類がこれほど大きな文明を築くことができたのは、この力のおかげと言って良いでしょう。

このように、思考の力が人類に多大な恩恵を与えている一方で、私たちはその力によって苦しめられているという面もあります。つまり、他人と比べて劣等感を感じること、様々な将来の不安を作り出すこと、過去の出来事を繰り返し後悔することなどです。また、このような悲観的な思考が、場合によってはその人の心を病気にしたり死に追いやったりすることもあります。つまり、うつ病や自殺は、「私は価値のない人間である」とか、「私の夢は実現できなかった」というように、思考を悲観的な面に集中して使うことによって起きるからです。

以上のように考えれば、思考をどう使うかということは、現代の私たちにとって切実な問題であるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

現代人は皆疲れているとよく言われます。ですが、移動は車や電車を使っていますし、イスに座ってパソコンを使っているだけで、動き回っているわけではありません。この現代人の疲労の原因が、思考の使い方にあり、その使い方をどう改善していくのかということが本書のテーマです。

確かに、疲労の原因として、私たちの労働時間が長いということもあるかもしれません。ですが、働くこと自体が必ずしも人間の苦しみになるとは限りません。働くことが、その人をより生き生きさせたり、輝かせたりすることもあるからです。しかし、思考を使いすぎること、特に他人からの評価を気にしたり他人の心情をあれこれ想像すること、過去を後悔したり未来の不安を様々に思い悩むことは、明らかに人間を疲れさせています。

したがって、現代人の疲労を回復するには、とにかく思考の量を減らす必要があるのです。また同時に、思考を何に有効に使っていくかということも大切です。単に思考を減らせばそれであらゆる問題が解決できるわけではなく、実際は日常生活や仕事において起きる様々な問題に思考を使って対処していかなければならないからです。

本書では、この二つの観点を持つこと、不必要な思考を手放すこと必要な思考に集中することを「思考のマネジメント」と呼んで推奨しています。つまり、いつも心配ばかりしている人であれば、「他人の気持ちをあれこれ想像していたけど、その人が本当にそう思っているかどうかは本人に聞かないと分からないから、これ以上考えるのはやめよう」とか、「この仕事は明日上司に確認するまで進まないから、あれこれ心配するのはやめて、今は別の仕事を終わらせよう」というように、今考えている事が本当に必要なことかどうかを判断して、必要でなければその思考を手放したり、別の思考へと切り替えていくのです。つまり、四六時中漠然と何かを考えているようなことはやめて、必要でない思考は止め、有益な思考には集中するということが、休息と人生の活力を生み出し、心の健康を作り出すことができるのです。

この思考のマネジメントの実際的な方法が瞑想です。瞑想の練習によって不要な思考を手放したり、あるいは考えなくてはいけない事に対しては集中するといった、思考の使い方を習得できるからです。このように思考を使いこなすという技術は、ストレスの多い現代人にとって特に必要とされている能力ではないかと思います。

それではこれから、メンタルヘルスケアのための瞑想についてお話ししていきたいと思います。